ごあいさつ

2022・2023年度 会長 柏木智博

2024・2025年度 会長 柏木智博

 

このたび、会員の先生方を始め、各方面からのご支援とご厚情により3期目の会長職という栄誉を賜り、引き続き京都産婦人科医会の重責を担わせていただくことになりました。
これまでの4年間で変わってしまったこと、そして、新たに新生されたものがあるわけで、これからの時代に沿った運営をしていかなければなりません。
会員各位におかれましてはぜひご協力、ご支援を頂戴したく存じますのでよろしくお願い申し上げます。

 

2020年から2023年度までに掲げました活動項目と新たに加わった、各々の活動対象を再総括し、今期の目標を申し上げます。

 

1.妊娠する前からサポートする体制作り、プレコンセプションケア(妊娠前のケア)の推進
前期・後期におきまして、計88回の研修会(単位付与)(2020年度:15回、2021年度:28回、2022年度;23回、2023年度:22回)を開催させていただきました。研修(計115講演)の内訳ですが、女性保健に関わるものが36講演と多くなっています。特に女性のあらゆる世代において産婦人科領域だけでなく、他科領域の疾患などをテーマにした内容が多くなって参りました。次にがんと手術に関連するもの(28講演)、そして、母子保健を含む周産期関連(27講演)です。その他として、医療倫理や生殖医療に関するものも窺えるようになってきました。今後も多くの実りある研修会を開催していきたいと考えております。
今年度から京都府も将来の妊娠を考えながら生活や健康に向き合うプレコンセプションケアに取り組むことを表明しました。若い世代から妊娠についての正しい知識を身につけていただくために、「プレコンセプションケア・葉酸啓発活動への自治体協力に関する要望書」を府に提出させていただきました。

 

2.HPVワクチンキャッチアップ接種の勧奨と定期接種
HPVワクチンキャッチアップ接種ですが、公費で接種できるのは2025年3月末までです。標準的な接種間隔の場合、接種完了までに6か月かかります。2024年9月末までに1回目の接種を開始しなければならず、更なる周知に努めなければなりません。
現在、HPVワクチンの接種率も30%程度、子宮頸がん検診も40%程度で低迷を続けており、若年者の子宮頸がん罹患率も微増している状況です。
日本人女性のうち、子宮頸がんにかかる数は約76人に1人と言われています。20代から30代女性における子宮頸がん発症率(10万人あたり)は、1990年 7.4人、2015年 15.3人で約2.1倍となっています。また、子宮頸がんで毎年亡くなる女性の人数は約2,900人もいます。子宮頸がんの罹患年齢は、出産年齢と重なるため、これまで以上に定期接種と子宮がん検診を合わせて受診勧奨していくべきです。

 

3.女性のがんサポーティブケア
がんサポーティブケア(SC)とは、がんに伴う症状やがん治療に伴う有害事象の病態を理解し、診断、治療、治療評価、予後、さらにその診療体制を含めたがんのすべてのステージを包括的に患者・家族をサポートする医療です。SCの対象となる症状の一つにがん治療による月経不順や不妊があり、その予防と治療は患者のQOLを左右する重要なマネージメントです。
毎年、「京都がんと生殖医療研究会」を開催し、小児・AYA世代のがん生殖医療について検討を重ねています。かつては不治の病と言われた「がん」も我々の生活を脅かす存在でしたが、近年の抗がん剤の進歩とも相俟って生存率は年々向上しています。ここ京都におきましても、2017年にKOF-net(OncoFertility network)というがん治療施設と生殖医療施設のネットワークを構築し、がん治療後の妊孕能を温存する医療連携を提供することを目的に活動しています。
若いがん患者さんが希望をもって病気と向かい、将来子どもを持つことの希望を繋ぎ取り組んでいくこと、そして、女性のがんの早期から終末期までを様々な面からサポートする支援策はこれからの重要な課題であると考えています。

 

4.新生児聴覚スクリーニング(NHS)などの普及に向けて
令和5年度中に京都府内全ての26市区町村で新生児聴覚スクリーニング検査の公費助成が受けられるようになりました。
2023年度の京都NHSシンポジウムでは、滋賀県産科婦人科医会(野村哲哉会長)との初の合同開催となりました。
NHSを最初に行うのは産婦人科であり、精度管理はもちろんですが、難聴を早期に発見し、早期に次の精査、療養へ繋げていくことが大切です。また、リファーとなった症例では、尿中サイトメガロウイルス検査を産科入院中に施行することも重要です。今後も京都府耳鼻咽喉科専門医会と協働してNHSの有用性を発信することで、NHS検査の更なる普及、自動ABRへの買い替え助成に向けた活動を引き続き行って参ります。

 

5.産婦人科医師の勤務実態と医師の働き方改革
2024年4月より「医師の働き方改革」が実施されます。すべての勤務医に時間外勤務の上限規制が適用されます。産婦人科勤務医が法律で定められた勤務時間内で勤務するためには、分娩を取り扱う医療機関を集約化しつつ,病院と開業医がうまく連携を取りながら、医療体制を整備することが必要となります。
働き方改革は決して勤務医のみの話ではなく、開業医も含む産婦人科医師全体の話であります。働き方の改善であるということ、そして、産婦人科医療全体の質の向上に繋げることに意味があるのです。

 

6.分娩取扱い診療所やオフィスギネコロジーの推進
今回新たに発生した課題として、特に産科有床診療所は、以前からの少子化に加え新型コロナウイルス感染症の影響もあり、分娩数の減少や受診控えによる経営悪化の問題が顕在化してきました。現在、全国の半数の分娩を担い地域医療を支えている有床診療所の経営基盤を安定化させることが喫緊の課題であります。
この4月から出産費用の見える化が始まり、さらに2年後には分娩費用の保険適用化を検討することになります。適切な分娩費用のあり方やその設定のための環境整備とともに分娩取扱い施設の情報を妊婦さんにわかりやすく提供する方法についても検討しなければなりません。
無床診療所は女性のライフサイクルを見据えて思春期のヘルスケアから老年期の在宅医療までを幅広く取り組むための新しい提案が必要で、さらには予防医学も踏まえた見地が必要です。有床・無床診療所を問わず、地域のかかりつけ医として女性内科(高血圧・脂質代謝異常など)を診ていくことも今後は重要であると考えます。
RSウイルスに対する国内初の母子免疫ワクチンが製造販売承認を取得されました。現在、妊産婦でも接種できる予防ワクチンが揃い始めて参りました。ワクチンで防げる病気というものがあり、これからの産婦人科医はこうしたワクチンへの理解と接種が進むことを期待いたします。

 

7.周産期メンタルヘルスケア推進に向けて
妊産婦のメンタルヘルスケアを評価してケアすること、育児不安を解消すること、健全な母子関係を成立させることなどを含む、産前から産後にわたる継続的な支援とその準備を推進します。
2022年度、2023年度に母と子のメンタルヘルスケア(MCMC:Mental Health Care for Mother & Child)研修会(入門編)を開催しました。

 

8.性別不合と産婦人科医との接点
心と体の性が一致しないトランスジェンダーは決して障害ではなく、性別不合(GI:Gender Incongruence)です。GIの診療は、各分野の専門医がチームを組んで行われます。産婦人科医は、診察や検査により生物学的性(身体の性)を確定することで診断に関わるとともに、さらにホルモン治療や性別適合手術、そして、生殖医療を行うことになります。学校教育の中で、性の多様性について教えていくことにも関与し、学校との連携、思春期の児童に対しても、今後益々産婦人科医の役割は重要になっていくでしょう。今年度は本テーマを扱う初めての試みとなります。

 

これから迎える超少子化時代に向けて、産婦人科医は厳しい現実に直面します。産婦人科医でしかできないこと、まだまだやること、やらなければならないことが一杯あります。そのために会員諸兄皆が協力して、女性のために、新しく生まれてくる命のために、そして、未来のために進んでいかなければなりません。

 

今期もどうぞご指導、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

令和6年10月1日

2024・2025年度 会長 柏木智博

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