ごあいさつ

 

新型コロナウイルス感染症がまだ収束もしていないうちに、ロシアがウクライナへ軍事侵攻し、多数の命が犠牲になっている状況です。日本も少なからず甚大な影響を受けることになり、とても対岸の火事ではありません。いかなる理由があろうとも、命を粗末に扱うことは絶対にあってはならないものであります。
 この度、前期に引き続き医会長にご選出いただきまして誠にありがとうございます。新型コロナウイルスが3年目、小生も3年目に突入ということで、まさにコロナ禍の中の会長職でありますが、難局に負けず邁進して参りたいと存じます。
また、今期は6年に一度の役回りである近畿産科婦人科学会を京都が主務地を担当することになります。主務地担当理事は江川晴人先生です。会員各位におかれましてはぜひご協力、ご支援を頂戴したく存じますのでよろしくお願い申し上げます。

 

前期の初頭に掲げました7つの柱、各々の活動対象を総括し、今期の目標を申し上げます。

 

1.妊娠する前からサポートする体制作り、プレコンセプションケア(妊娠前のケア)の推進
前期におきましては、計43回の研修会(2020年度:15回、2021年度:28回)を開催させていただきました。研修(計61講演)の内訳ですが、女性保健に関わるものが20講演と非常に多くなっています。特に女性のあらゆる世代において産婦人科領域だけでなく、他科領域の疾患などをテーマにした内容が多くなって参りました。次にがんと手術に関連するもの(16講演)、そして、母子保健を含む周産期関連(10講演)です。COVID-19を含む感染症関連は7講演でした。この傾向は次年度以降も続くものと思われますが、たくさんの実りある研修会を開催していきたいと考えております。
わが国で増加傾向著明な乳がんですが、妊婦の大半を占める40歳未満の女性、若年女性は対策型検診の対象にはなっていません。乳がん患者の診療に産婦人科医が係わることは、オフィスギネコロジー参入の観点からも非常に意義あるものと考えられます。また、近年特に増加傾向にある子宮体がん、卵巣がんに対する対策強化も必要です。思春期から老年期に渡って、女性の生涯を通じたヘルスケアを産婦人科医だからこそ求めて参りたいと思います。

 

2.HPVワクチン接種勧奨再開に向けて、行政を巻き込んだ取り組みを積極的に行います。
令和3年8月にHPVワクチンに関する要望書を京都府医師会へ提出し、同年10月に京都小児科医会と連名で京都府と京都市へ提出しました。その甲斐ありまして、11月にHPVワクチン定期接種の積極的勧奨再開が決定し、令和4年4月から積極的勧奨の再開が始まります。
 HPVワクチンの接種後に生じた体調の変化や症状については、まずは接種医療機関やかかりつけ医である産婦人科を受診していただくことになります。その際、必要に応じて、協力医療機関である京都府立医大附属病院の方へご紹介していただければ宜しいかと存じます。また、接種機会を逃した女性に対するキャッチアップ世代にも効果が期待できるため、より産婦人科医の接種機会が増えるものと考えます。

 

3.女性のがんサポーティブケア
がんサポーティブケア(SC)とは、がんに伴う症状やがん治療に伴う有害事象の病態を理解し、診断、治療、治療評価、予後、さらにその診療体制を含めたがんのすべてのステージを包括的に患者・家族をサポートする医療です。SCの対象となる症状の一つにがん治療による月経不順や不妊があり、その予防と治療は患者のQOLを左右する重要なマネージメントです。
毎年、「京都がんと生殖医療研究会」を開催し、小児・AYA世代のがん生殖医療について検討を重ねています。かつては不治の病と言われた「がん」も我々の生活を脅かす存在でしたが、近年の抗がん剤の進歩とも相俟って生存率は年々向上しています。ここ京都におきましても、2017年にKOF-net(OncoFertility network)というがん治療施設と生殖医療施設のネットワークを構築し、がん治療後の妊孕能を温存する医療連携を提供することを目的にすでに活動を開始しています。
若いがん患者さんが希望をもって病気と闘い、将来子どもを持つことの希望を繋ぎ取り組んでいくこと、そして、女性のがんの早期から終末期までを様々な面からサポートする支援策はこれからの重要な課題であると考えています。

 

4.新生児聴覚スクリーニング(NHS)などの普及に向けて
2020年度の京都NHSシンポジウムでは耳鼻咽喉科、新生児科、産婦人科それぞれの立場から現状と問題点を抽出し、2021年度は産婦人科医のためのNHS検査の実際と京都府における現況と問題点を討論していただきました。
NHSを最初に行うのは我々産婦人科医であり、精度管理はもちろんですが、難聴を早期に発見し、早期に次の精査、療養へ繋げていくことが大切です。また、リファーとなった症例では、尿中サイトメガロウイルス検査を産科入院中に施行することも重要です。今後も京都府耳鼻咽喉科専門医会と協働してNHSの有用性を発信することで、NHS検査への公費補助の獲得、自動ABRへの買い替え助成に向けた活動を継続的に行って参ります。

 

5.産婦人科医師の勤務実態と医師の働き方改革
2024年4月より「医師の働き方改革」が始まり、すべての勤務医に時間外勤務の上限規制が適用されます。産婦人科勤務医が法律で定められた勤務時間内で勤務するためには、分娩を取り扱う医療機関を集約化しつつ,病院と開業医がうまく連携を取りながら、医療体制を整備することが必要となります。
働き方改革は決して勤務医のみの話ではなく、開業医も含む産婦人科医師全体の話であります。働き方の改善であるということ、そして、産婦人科医療全体の質の向上に繋げることに意味があるのです。

 

6.分娩取扱い診療所やオフィスギネコロジーの推進
今回新たに発生した課題として、特に産科有床診療所は、以前からの少子化に加え新型コロナウイルス感染症の影響で分娩数の減少や受診控えによる経営悪化の問題が顕在化してきました。現在、全国の半数の分娩を担い地域医療を支えている有床診療所の経営基盤を安定化させることが喫緊の課題であります。妊産婦の負担増とならない出産育児一時金の増額など適切な分娩費用のあり方や設定ができるような環境整備が必要です。無床診療所は女性のライフサイクルを見据えて思春期のヘルスケアから老年期の在宅医療までを幅広く取り組むための新しい提案が必要でさらには予防医学も踏まえた見地が必要です。有床・無床診療所を問わず、地域のかかりつけ医として女性内科を診ていくことも今後は重要であると考えます。

 

7.周産期医療における災害時対応
 新型コロナウイルス感染症という国難とも呼べる緊急事態に対して、災害時メーリングリスト(ML)を用い、至急に伝達すべき情報や連絡事項を会員各位へ周知させていただきました。令和2年4月に分娩前妊婦に対するPCR検査の要望書を京都府と京都市へ提出し、全国でもいち早く公費での検査体制が開始しました。今では唾液によるPCR検査が1出産につき2回公費負担で行われています。また、希望される妊婦のワクチン接種についても優先的に行われています。新規感染者数が増加すれば、妊婦のPCR陽性者も増加します。京都府周産期医療機関ブロック会議では、京都府内を6つのブロックに分け、総合・地域周産期母子医療センターや総合病院と診療所間の連携を確保し、受入れ医療機関を決定できるようにしました。10月には京都市、京都府医師会と京産婦医会の3者間において在宅療養中の妊婦に対する医療体制構築に向けた協定締結をし、同月より府医師会館内に設置したコンテナ内で診療が行われています。
現在、第6波の渦中ですが、陽性妊婦と濃厚接触者となった妊婦が増加しており、在宅療養期間中の健康チェックをぜひかかりつけ医である産婦人科医が実践していただきたく存じます。その際、診察が必要となった場合は、ぜひコンテナを活用していただけばと思います。コンテナの使用期限は令和3年9月末日までです。

 

最後になりましたが、2018年4月にかかりつけ医制度が始まりました。将来の医療体制にとって大切な制度であり、新しい地域連携医療の構築を目指していくものです。かかりつけ医は身近にいて頼りになる医師のことです。
自宅療養を余儀なくされておられるコロナ陽性妊婦への日々の健康チェック、老若男女を問わずに施行したCOVID-19のワクチン接種、そして4月から始まるHPVワクチンなども同様、これらを通じて学んだことは、産婦人科医ご自身が地域のかかりつけ医であるという認識を強く意識していただきたいと存じます。

 

今期もどうぞご指導、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

令和4年4月1日

2022・2023年度 会長 柏木智博

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